スペイン、だましのテクニック

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10月3日。マドリッド。晴れ。

マドリッド滞在3日目にして、初めて青空がのぞいた。そこで今まで原稿を書いたり、メールでアポイントを入れていた薄暗いホテルの部屋を出て、散歩に出かけた。

目的地もなく、文字通りブラブラ歩いていると、白い荘厳な建物を控えた美しい広場にたどりついた。周りにはオープン・カフェ。僕が大好きな、ピープル・ウェッチングするには最適な場所だ。

ランチも兼ねて2時間ほどいたカフェを後にして、広場に入ったところで、その事件は起きた。

小太りの男が寄ってくる。マップを手にした、いかにも観光客然としたやつである。話を聞くと、自分はローマから来たが、この辺の地理がわからない。マヨール広場までの行き方を教えてくれ、という。また、自由時間があと2時間しかないが、どこか絶対行っておいた方がいい観光の名所はないか、とも言う。

自分もただのツーリストなのでわからない、という旨を伝えると、じゃあ広場にある像といっしょの写真を撮ってくれ、という。断る理由はないので応じる。すると、もう1カ所、写真を撮ってほしい場所がある、という。その像からほんの20メートルぐらいの場所だが、低木の裏で周囲からは死角気味である。

これはもしかすると...

とはいえ、周りには観光客があふれている。まぁちょっと頼りないイタリア男が、本当に写真を撮ってほしいだけかもしれん。そう思ってもう1枚撮ると、後ろから二人組みの男たちが。頼まれもしないのに、いきなり身分証明書(らしきもの)を見せながら、「パスポートのチェックをしている。見せてくれ」。

きたきた、これが噂のニセ警察官だ!

このまま無視して10メートル歩いて衆人環視の場所に出ようかとも思ったが、ふと「こっちは完全に向こうの芝居を見抜いているわけだし、どう出るのか見てみたい」という衝動が勝ってしまった。幸い、こういうこともあろうかと、財布のお札はすべてポケットに入れてあるし、パスポートは持ってないが、財布の中にアメリカの免許証があるから、身分証明に関しては、強く出れば問題ないはずだ。

そこで、観衆として、この芝居の続きを見ることにした。

ニセ警官はまず、イタリア男に身分証明書の提示を要求する。やつはイタリア人(ほんとかどうか知らんが)なので、財布に入っているEUの身分証明書を提示する。きっと、僕を安心させるための芝居なんだろうな、結構凝っているな、と感心した。次は僕の番だ。

ニセ警官「お前のパスポートは?」
nob「パスポートはホテルに預けてある」
ニセ「そりゃ問題だぞ」
nob「でも免許証があるから問題ないだろ。ホラ」

ニセ警官たちは、明らかに多少の落胆を表情に出していた。日本人だと確信して始めたのに、アメリカの免許が出てきたからだろう。しかし、さすがはプロ(?)。めげずに芝居を続けた。

今度は例のイタリアン君に対して「偽札を探している。財布を見せてくれ」。いよいよ今回のメインだ。

いきなり偽札を探していると言うと、さすがに無防備な日本人でも警戒すると思って、これだけの前準備をするようにしたのだろう。敵(?)ながら、なかなかクリエーティブであっぱれだ、と心で思いながら、いよいよ芝居の終幕に向けた演技を観ることにした。

イタリア男は、出すのが当たり前、という感じで財布を出してニセ警官に渡す。ニセ警官は、警官らしく公明正大な感じで財布をあけ、堂々と紙幣を取り出す。イタリア男、けっこう紙幣を入れている。いろいろな額面で合計10枚以上もある。ニセ警官は、紙幣に対して、わざとらしいぐらいクリアな動作を繰り返したあと、紙幣全部を財布に戻した。

ああ、この動作で、安心させるために、ここまでの全部の演技があったんだ!相当、相手の心理を考えている。けっこういい脚本書けるかもしれない。

もちろん、僕がこんなことを考えているとは露知らず、ニセ警官は(とうとう!)僕に向けて言った。「今度はキミの番だ」。


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コメント(11)

yuki

関さん、これを書いているということは安否は大丈夫ということですね?

nagako

おもしろいやんけー

Hidehiro MATSUMOTO

早く続きがよみたい! さすがsekiさんです。読む側の心理を読んでいる?

nob seki

あっけない幕引きだった。

僕は自分で財布を開けると、「紙幣がないんですよ。あるのは領収書ぐらいかな…」。なぜか物悲しそうなニセ警官。これでは、これだけの芝居に対して申し訳がない。そう思った僕は、何故か自発的に「そうだ、20ドル札が1枚あるんですが、一応見ます?」と言ってしまった。一般に言われている彼らの手口は、紙幣の束を出したときに、札を抜いたり安いものに変えたりするらしい。さあ、ニセ警官たちよ、色も形も違う20ドル札にどう対応してくれるのか?

彼らにアドリブを要求するのは、多少酷だったか。彼らは一応20ドル札を広げたり、裏返したりしていたが、すぐに返してくれた。そして「問題なしだ。ありがとう」と爽やかに(見た目はタダのおっさんだけど)言うと、その場から立ち去っていった。

あっけない。本当にあっけない。

しかし、彼らはこれを教訓に、さらなる研鑚をつむのだろうか。目的への努力、そういった意味では、彼らは誰の助けも得ず、クリエーティブさを発揮して生き残ってきているに違いない。すばらしいベンチャー・スピリットだ。昔、ひとつの時代を作り上げてきた偉人たちの中には、当時の感覚で言えば犯罪のようなことをして、のし上がってきた人物も多い。「だまされるほうが悪い」というルールが合法であれば(株の世界は、実は結構そんな世界のような気がする)、彼らはごくまっとうなベンチャーである。

しかし、とはいえ、日本人をターゲットにしたニセ警官犯罪は、この事件のせいで一段と狡猾になってしまうかもしれない。余計なことをしてしまったのだろうか…。


などと考えていると、なんとイタリアン君も一緒にいなくなっているではないか。しまった、最後にイタリアン君と雑談をして、別れ際に写真を撮らせてもらおうと思ってたのに!

すぐに広場を捜索したが、さすがに彼らはプロ。走って探しまくったが、彼らは忽然と姿を消していた。胸に忍ばせた1秒スタンバイ、ソニーDSC-U10も、今回は出番なしか…。

気が付くと、広場の上に広がる青空には、飛び立ったばかりの飛行機が、飛行機雲を作りながら、白い荘厳な建物の上に消えていった。そうだ、たった5分ほどの出来事だったのだ。次に彼らがこの広場にやってくるのは、いつなのだろうか。


(注:囲まれたり羽交い絞めにされたり、ナイフを出されそうな状況でも雰囲気でもなかったので、今回のような進行になりました。暗い場所や、人気のない場所では、決して試されないよう、付け加えておきます)


yuki

関さん、やっと続きを書いてくれましたね。もう、本当に引っ張るんだからー。(笑)
読んでいる側は全然あっけなくないんだけどなー。
でも、イタリアン君の写真は見たかったな…。

nob seki

同僚と話していたら、トルコでも似たような体験をしたことを思い出しました。そのうち、またまとめて「だましのテクニック、お国自慢」でも作ります。

nob seki

この話を知人にしたところ、次のようなコメントが。

> 物騒な話ですが‥私の上司は、日曜日のマドリッドで地下鉄に向かう通路でいきなり
> 後ろから首を締められ、気絶している間に所持品を全て奪われるという強盗に先日
> 会っていました。くれぐれも無理はなさらぬよう。。。

地下鉄は危ないと聞いていて、移動はすべてタクシーにしたのですが、これを聞いてもう、マドリッドでは地下鉄には乗れないな、と思うのでありました。

Fujiko Suda

I see what you mean by dangerous Madrid. But I loooove your suspense story. When's the next one coming?

rieo

こんなときにも頭の回転がいいんだなぁ。わたしは怖くてまねできないな。